<医薬品機構>製薬企業OB9人を雇用 新薬の審査部門に
医薬品の安全性などを審査し、厚生労働省に新薬として承認すべきかどうか通知する独立行政法人「医薬品医療機器総合機構」と言うのが2年前から設立されています。本来、「行政の事業」として行われるのが筋ですが、「独立行政法人」として、審査する機関が作られています。こちらの機関で、審査員の「専門性」と「受益者負担」という理由で製薬会社のOBが採用されているようです。
確かに、医薬品の安全性を審査する、というきわめて専門的な知識が要求される職種ですから、それなりの経験と知識が必要であることは理解できます。製薬会社に人材を求めるのは仕方のないところでしょう。この場合は少なくとも、「誰がどの申請の審査に関わったか」を公開することを前提として、基本的には過去の所属機関と「利害関係」がある案件には関与できない仕組みを作ることが必要でしょう。
また、「受益者負担」の考え方ですが、「医薬品医療機器総合機構」の業務の受益者は、きちんとした安全性審査を実施することにより安全な医薬品の提供を受ける国民全体であるべきで、製薬業界が受益者、と言う考え方は全くナンセンスです。「受益者」であるが故、運営費の拠出を求められたり、人材を供給しているのであれば、なんのための審査であるのか全く疑わしいです。
何でもかんでも「民間」でという号令のもと、様々なものが民営化され、一部はこのような独立行政法人化されていますが、生活の安全や安心に関わる行政の事業は国が責任を持って実施できる体制に戻す必要があると思います。「最終的な責任は厚生労働省」とは言っても、そのように見えないところが問題です。
医薬品の安全性などを審査し、厚生労働省に新薬として承認すべきかどうか通知する独立行政法人「医薬品医療機器総合機構」(東京都千代田区)が04年4月の設立以降、製薬企業8社のOB9人を雇用していたことが分かった。企業で開発部門に携わっていた人物を審査部門に配属するなど、いずれも企業在職時と関係の深い業務に就いている。専門性の高さや人員不足などを理由とする例外規定に基づく措置だが、専門家からは生命にかかわる公的業務の中立性を不安視する声が上がっている。
◇公的業務の「中立性」に不安も
新薬審査は薬事法上、厚労相が最終決定権を持つが、「承認して差し支えない」とする機構の判断が覆された事例は04、05年度で一件もない。薬害エイズ事件後の39人の天下りが発覚した厚労省に続き、強大な審査権限を持つ機構も業界と結びつきを強めている実態が浮かんだ。
9人は05年3月〜今年1月、公募方式で採用された。2社から各2人、残る6社から各1人ずつ雇用されている(うち1人は2社に在籍)。機構就職後は医薬品の安全審査や、工場への現地調査により申請書通りの製造工程が守られているかなどをチェックする品質管理業務を担当している。
機構は9人を採用した事実や出身企業名などは明らかにしたが、氏名や肩書(企業時代も含む)、具体的な業務内容など詳細は一切公表していない。
民間からの採用については機構の設置法などで(1)製薬企業の現職役員の場合、機構役員への登用は禁止(2)採用前5年間、企業で医薬品の研究・開発に携わっていた場合、機構就職後2年間は医薬品の承認審査業務に関与できない——などの制限がある。
9人は雇用後すぐ企業時代の担務と密接な関係のある部署に配置されており、(2)の規定に反する。しかし「治験データの分析・評価、医薬品・医療機器の工程検査の分野で、かつ他職員とともに業務に当たる場合に限り関与を認める」とする機構の例外規定により採用された。規定は「専門知識が必要なため人員確保が困難」などを理由に定められたという。
機構設立前は、一部の文書チェックなどを除く審査に関する全業務を厚労省や国立研究所に所属する国家公務員が担当していた。このため、機構の設置法を審議した02年の国会で、健康・生命に関する重要な業務を切り離す点に批判が集まったが、政府・与党側が「厚労相が最終決定権を握ることに変更はない」として押し切った経緯がある。
坂口力厚労相(当時)は機構設立前の02年12月、薬害被害者と面談し「優秀な人の場合どうするかなど個々のケースもあるが、原則的に言えば完全に(民間と)分離をしたい」と企業OBの採用に慎重な姿勢を見せていた。【小林直、堀文彦】
▽医薬品医療機器総合機構・業務調整課の話 採用は適正な手続きに基づいており、9人は(外部の識者らで作る)運営評議会にも報告している。OB採用で審査が甘くなることはない。
【医薬品医療機器総合機構】 特殊法人改革の一環として、新薬を審査する「国立医薬品食品衛生研究所・審査センター」、被害者救済事業を行う「医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構(認可法人)」などを統合し、04年4月に発足した。審査対象は医薬品だけでなく医療機器にも及び、販売後の副作用情報収集なども行う。4月現在の役職員数は319人。
◇「企業寄り」懸念
医薬品問題に詳しい新横浜ソーワクリニック院長の別府宏国医師の話 「人員確保が困難」との理由も理解できなくはないが、多くの製薬企業OBを採用している現状では、審査が企業寄りにならないか疑念が生じる。OBがどの企業の、どの医薬品の審査にかかわったかなど情報を開示しない限り、適正さがチェックできず不透明さが残る。
◇情報開示姿勢に疑問
企業OBを採用しながら、業務内容などの情報開示を拒む「医薬品医療機器総合機構」の姿勢は、安全審査の中立性をチェックする手段を市民の手から奪うものだ。だれが、どの薬の審査に、どのように関与したかなど、最低限の情報が、一般はおろか内部チェック機関の運営評議会にさえ報告されていない現状は、機構の公益性に照らせば、あまりに不十分だ。
機構の規則によれば、「古巣」と密接に関連する担当部署に配属されたOBは、別の機構職員と合同で職務に当たる。一見、癒着は防げる配慮がなされているようだが、問題は、その「密接かどうか」を判断するのが機構自身であることだ。外部は「きちんとやっている」という機構の説明をうのみにするしかない。
機構の設置法案の骨子も定まっていない02年8月、厚生労働省は製薬企業に「02年度の職員数は約240人。05年度は約370人に強化」など全容を文書で示した。同時期に説明を受けた被害者団体には明らかにされず「企業寄り」と非難を浴び、設置法成立時「業務内容を積極的に公表し、組織や運営状況を国民に明らかにする」との付帯決議までなされている。機構は原点に立ち返り、積極的な情報開示を心掛けるべきだ。
薬害エイズなど過去の悲惨な被害の背景には、官民の癒着が横たわっていた。「受益者負担の原則」により、機構は製薬企業など延べ7891社から約91億円(04、05年度)もの拠出金を受領している。カネに加え、人まで企業頼みの現状は独立性に大きな問題があり、できるだけ早期に企業OBの採用を中止すべきだろう。